名古屋高等裁判所 昭和30年(て)5号 判決
本件請求の趣旨は昭和三十年五月二十日附検察官神野嘉直提出の保証金没取請求書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用する。
本件記録及び名古屋地方検察庁豊橋支部より取寄に係る李漢逸に対する銃砲等所持禁止令違反、傷害、恐喝未遂被告事件の訴訟記録(当庁昭和三十年五月二十四日の嘱託に対し同年八月十一日当庁到達のもの)によると、右李漢逸は右の被告事件について昭和二十三年十月七日名古屋高等裁判所において懲役一年六月に処する旨の判決の言渡を受け、これに対し上告を申立てたが、昭和二十五年七月二十八日最高裁判所において上告棄却の決定があり、前記判決は同日確定したこと、右李は右恐喝未遂被告事件につき昭和二十三年二月二十五日以降勾留されていたところ、同年十月二十八日名古屋高等裁判所の保釈決定に基き保釈保証金二万円を納付して即日釈放されたこと、よつて昭和二十五年十月三日附検察官発布の収監状に基き司法警察職員において刑の執行をしようとしたところ、右李は同年九月十四日頃韓国軍義勇兵として入隊のためと称し、既に豊川市市田町諏訪新畑二十九番地の住所を立ち出で、本籍のある朝鮮に渡つて逃亡し、爾来今日にいたるまで刑の執行をすることができないでいることを認めることができる。これに対し検察官から昭和三十年五月二十日当庁に対し前記保釈保証金の没取の請求があつたのである。しかるところ三年未満の有期懲役刑は刑を言い渡した判決が確定した後五年の経過と共に時効が完成する訳であるから刑法所定の刑の時効の停止、中断事由の認められない本件においては右李は昭和三十年七月二十七日限り(記録中の昭和二十五年十月三日附収監状中の昭和三十年十月三日時効完成と記載あるは誤記と認む)時効により右刑の執行を免除されるにいたつたものであるが保釈保証金は刑の言渡確定後は刑の執行を担保することを目的とするもので、従つて一旦右保証金没取の条件が完成した後といえども、その担保せらるべき本刑そのものが時効により執行を免除された後は保証金はその対象を失い、も早やこれを没取することができなくなるものと解するのが相当であるから、本件保証金没取の権利も又前記七月二十七日限り消滅したものといわなければならない。それ故右保証金の没取を求める本件請求は結局認容し難く、これを棄却しなければならない。
(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 中浜辰男)